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歯科医はあなたのどこを見てリスクを判断するか
親知らずの抜歯前に、歯科医は患者さんと様々な話をします。それは単なる世間話ではなく、術後の合併症であるドライソケットのリスクを評価するための、重要な「問診」と「診査」のプロセスです。プロフェッショナルは、あなたの何気ない言葉や口の中の状態から、ドライソケットになりやすい「予備軍」の可能性を慎重に見極めているのです。まず、問診で最も重要視するのが「喫煙歴」です。一日に何本吸うか、いつから吸っているか。この質問は、ドライソケットのリスク評価において絶対に欠かせません。喫煙が血流を阻害し、治癒を遅らせることは科学的に証明されており、喫煙者であるというだけで、リスクレベルは格段に上がります。次に、「服用中の薬」についてです。特に、経口避妊薬(ピル)の服用は、女性ホルモンの影響で血餅が溶けやすくなるため、非常に重要な情報です。また、血液をサラサラにする薬(抗凝固薬や抗血小板薬)を服用している場合も、血が固まりにくいという点で注意が必要です。さらに、「全身疾患の有無」も確認します。糖尿病などの持病は、免疫力の低下や血流障害を引き起こし、傷の治りを悪くする可能性があるためです。口の中の診査では、まず「口腔清掃状態」をチェックします。歯垢や歯石が多く付着しているなど、口腔衛生状態が不良な場合、口の中の細菌数が多く、抜歯後の感染リスクが高まります。これが血餅の正常な形成を妨げることにつながります。そして、抜歯対象となる親知らずそのものの状態も、レントゲン写真を使って詳細に分析します。歯が骨の中にどれくらい埋まっているか、横向きになっていないか、歯の根が曲がっていたり、神経の管と近接していたりしないか。これらの所見から、抜歯の難易度を予測します。難易度が高いほど、手術による侵襲が大きくなり、ドライソケットのリスクも上昇します。これらの問診と診査から得られた情報を総合的に判断し、歯科医はリスクの高低を評価します。そして、リスクが高いと判断した患者さんには、抜歯後の注意事項をより強調して伝え、場合によっては抜歯のタイミングを調整することも提案します。あなたの健康を守るためにも、歯科医からの質問には、どうか正直に答えてください。それが、最悪の事態を避けるための、あなたと歯科医との最初の共同作業なのです。