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抜歯後のうがいはドライソケットへの招待状
親知らずの抜歯後、口の中の血の味や不快感から、一刻も早くすっきりさせたいという衝動に駆られるのは、ごく自然なことです。「しっかりと、うがいをして清潔に保たなければ」と考える真面目な人ほど、実は最も危険な罠にはまりやすいのです。なぜなら、抜歯後の「強すぎるうがい」は、激痛のドライソケットを自ら招き寄せる、最悪の行為だからです。このメカニズムを理解するためには、抜歯した穴にできる「血餅（けっぺい）」の重要性を知る必要があります。血餅は、抜歯した穴を埋めるゼリー状の血の塊で、いわば「天然の絆創膏」です。この血餅には、三つの非常に大切な役割があります。一つ目は、下にあるデリケートな顎の骨を、食べ物のカスや細菌などの外部の刺激から守る「保護膜」としての役割。二つ目は、出血を止める「止血栓」としての役割。そして三つ目は、傷が治っていく過程で、歯茎や骨を作るための細胞が移動してくるための「足場」としての役割です。ドライソケットは、この極めて重要な血餅が、何らかの原因で剥がれ落ちてしまうことで発生します。そして、その最大の原因となるのが、他ならぬ「強いうがい」なのです。特に、抜歯当日から翌日にかけては、血餅がまだ非常にデリケートで固まりきっていない状態です。このタイミングで、口に水を含んで「ブクブク」「ガラガラ」と激しくうがいをすると、その水圧で血餅はひとたまりもなく洗い流されてしまいます。良かれと思って行った清潔への努力が、結果として、骨を剥き出しにし、細菌感染の温床を作り出してしまうのです。では、どうすれば良いのでしょうか。抜歯後の口のゆすぎ方は、「うがい」というよりは「洗浄」に近いイメージです。水をそっと口の中に含み、頭を傾けて抜歯した場所に水を静かに行き渡らせたら、そのまま力を入れずにそっと吐き出す。これを数回繰り返す程度で十分です。歯科医の指示を守り、この「静かな洗浄」を徹底すること。それが、天然の絆創膏である血餅を守り抜き、ドライソケットという名の招待状を破り捨てるための、最も確実な方法なのです。