インプラント治療の中には数本のインプラントを支えにして入れ歯を安定させるインプラントオーバーデンチャーという方法があります。この治療法において頻繁に用いられるのが磁性アタッチメントと呼ばれるシステムです。これはインプラントの土台部分にキーパーという磁性ステンレス鋼を装着し入れ歯側に小型の強力な磁石を埋め込むことでカチッと吸着させる仕組みです。着脱が容易で手入れがしやすいため高齢者を中心に人気がありますがこのシステムを使用している患者がMRI検査を受ける際には一般的なインプラント患者よりも遥かに慎重な対応が求められます。ここでは具体的な対応事例を通じてその手順と注意点を解説します。ある70代の男性患者Aさんは数年前に下顎に2本のインプラントを埋入し磁石式の入れ歯を使用していました。ある日激しい腰痛に襲われ整形外科を受診したところ腰椎の精密検査のためにMRIを撮ることになりました。Aさんは歯科医師から磁石が入っている場合はMRIに注意するようにと言われていたことを覚えていたため問診時にその旨を申告しました。整形外科の担当医は直ちに近隣の連携歯科医院への受診を指示しました。これはMRIの強力な磁場によって入れ歯の中の磁石が吸着力を失ったり位置がずれて入れ歯が破損したりする恐れがあるためです。紹介された歯科医院ではまずAさんの入れ歯をお預かりし入れ歯の中に埋め込まれている磁石構造(マグネットアセンブリー)を取り外す処置を行いました。入れ歯自体は樹脂でできているため磁石さえ外せば検査室に持ち込むことも可能ですが通常は検査中は入れ歯を外しておくことが推奨されます。さらに問題となるのは口の中に残っているインプラント側のキーパーです。キーパーは骨に埋まったインプラントにネジで固定されていますが磁性を持っているため検査中に画像に大きなノイズを生じさせるだけでなく発熱や変位のリスクもゼロではありません。今回のケースでは腰の撮影であり口元から離れているためキーパーを装着したままでも画像診断への影響は少ないと判断されましたが念のため歯科医師はキーパーの固定ネジが緩んでいないかを確認しもし万が一のことがあればすぐに外せるように準備を整えました。もしこれが頭部の検査であったならばキーパーも取り外し代わりにチタン製のヒーリングキャップという仮の蓋を装着する処置が必要だったでしょう。Aさんは歯科での処置を終えた後整形外科に戻り無事に検査を受けることができました。検査後再び歯科医院を訪れ外しておいた磁石を入れ歯に再装着し元通り食事・会話ができる状態に戻りました。この事例からわかるように磁石式のインプラント入れ歯を使用している場合検査の前後で歯科医院での専門的な処置が不可欠となります。
磁石を使用した入れ歯とインプラント装着者の検査対応事例