あるベテラン歯科医師とのインタビューを通じて見えてきたのは、現在の日本の歯科医療における根管治療の費用がいかに歪な状態にあるかという現実です。歯科医師が語るには、根管治療の成功の鍵は「除菌の徹底」に尽きますが、これには膨大な手間とコストがかかります。例えば、1人の患者のために滅菌された器具をセットし、ラバーダムを装着し、高価な薬剤を使用して1時間じっくり治療を行うと、材料費と人件費、光熱費だけで保険診療の報酬を上回ってしまう「逆ざや」の状態が発生しやすいと言います。これが、一部の歯科医院で保険診療の根管治療が「短時間で回数重視」にならざるを得ない経営的な理由の一つです。自由診療における10万円という価格設定について、彼はこう説明します。「これは利益を上げているのではなく、本来必要な安全対策と精度を維持するための適正な対価です」。自由診療では、ニッケルチタンファイルを1人の患者、場合によっては1本の根管ごとに使い捨てることで、金属疲労による根管内での折れ込みリスクをほぼゼロに抑えます。また、高濃度の次亜塩素酸ナトリウムを用いた超音波洗浄により、肉眼では届かない細菌の塊を化学的に分解します。これらの材料費だけでも、数千円という単位で積み重なっていきます。さらに、マイクロスコープを覗き続ける作業は精神的・肉体的な疲労が激しく、1日に診ることができる患者数も限られます。「高い費用を頂く以上、絶対に失敗できないというプレッシャーは凄まじいものがありますが、それに見合うだけの機材と時間を自由に使えるからこそ、抜歯宣告された歯を救うことができるのです」という言葉には重みがあります。歯科医師の本音としては、全ての患者に精密治療を提供したいが、制度の壁がある以上、自由診療という形でその対価を求めざるを得ないのが現状です。患者側も、歯科医師が提供しているのは単なる「作業」ではなく、膨大な学習時間と機材投資に裏打ちされた「予知性の高い結果」であると理解することで、費用の見え方が変わってくるはずです。価格と技術は密接に相関しており、適正な費用を支払うことは、歯科医師のベストなパフォーマンスを引き出すための契約でもあるのです。
歯科医師の本音から探る根管治療の適正価格と技術の相関